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映画 『キューポラのある街』

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キューポラのある街、埼玉県川口市

 

キューポラのある街』は1962年4月8日に公開された日本映画。

映画監督、浦山桐郎の監督デビュー作である。

第13回ブルーリボン賞作品賞、主演女優賞獲得、大ヒットした。

主演は日本を代表する女優、吉永小百合。彼女の出世作にして代表作の一つ。

 

 

 

 あまり聞きなれないキューポラとは鉄の溶解炉。映画の舞台埼玉県川口市は鋳物の町で、当時多くのキューポラがあった。

 映画は」実際に川口市でロケされており、昭和30年代の街並みはリアル「三丁目の夕日」の世界だ。

 主人公の石黒ジュン(吉永)一家が暮らす長屋は、部屋が一間(6畳くらい)と台所だけで、そこへ家族6人(父、母、ジュン、弟2人、赤ん坊)でギュウギュウで暮らしている。生まれたばかりの赤ん坊を誰かが蹴っ飛ばしやしないかひやひやするほど手狭で雑然としている。

 これが昭和30年代の庶民の生活水準だったとは驚かされる。

 前年に公開され吉永も出演している日活映画、『あいつと私』の世界とはずい分環境が違うが。あちらは東京の上流家庭の物語だったか。

 

あらすじ

 

 ジュンの父親の辰五郎(東野英治郎)の勤務先の鋳物工場が大手工場に吸収されたために、足に障害がある辰五郎は解雇される。ちょうど同じ頃、4人目の子どもが生まれた石黒家の経済状態はたちまち困窮する。

 長女のジュンは修学旅行はあきらめるが高校進学だけは絶対にあきらめないと、受験勉強の合間にパチンコ屋でアルバイトを始める。ジュンは隣に住む鋳物職人の克巳(浜田光夫)に言う「勉強しなくても高校に行ける家の子には負けてたくない」。

 なかなか定職が見つからない辰五郎だったが、ジュンの同級生の父親の斡旋でやっと仕事が決まる。また母トミ(杉山とく子)が働きに出ることになり、弟たちの面倒を見るためジュンはアルバイトを辞める。

       

 ジュンはなにかと力になってくれる担任教師のスーパーマン加藤武)のおかげで修学旅行にも行けることになった。

 しかし旅行当日の朝、辰五郎が仕事を辞めると騒ぎだす。昔気質の辰五郎はオートメーション化された今の工場が耐えられないのだ。時間なので取り合えず家を出るジュンだが、修学旅行は行かなかった。

 暗い気持ちで、家にも帰れず一日歩き回っていると、一軒の飲み屋でトミが酔っ払いの相手をしているのを見てしまう。ショックを受けたジュンはヤケになってバッタリ会った女友達と遊びに行く。夜の盛り場で、ジュンは不良連中に一服盛られて眠らされてしまう。どこかの部屋に連れ込まれるが、警察と一緒に克巳が助けに現れ間一髪未遂に終わる。

    

 

 希望を失い学校を休み続けるジュンを担任が訪ね、普通高校に行けなくとも勉強する手段はいくらでもあると諭す。

 学校に戻るとパチンコ屋で一緒にアルバイトしていた友達が朝鮮に帰るという話を聞かされる。彼女の父親は朝鮮人である。川口駅で朝鮮へ帰還する一行を大勢が見送る。別れ際に友達は、ジュンがしばらく学校を休んでたので心配してた、早く元気になってと告げる。「やっぱり、はりきってないとあなたらしくないもの」ジュンは黙り込んでしまった。

 辰五郎が元々の職場にまさかの復職が決まった。克巳が組合なに掛け合ってくれたのだ。もう心配することなくジュンは希望の高校へ進学できることになった。

 しかしジュンはもう決意していた。働きながら定時制高校に通うことを。

すっかり元気を取り戻したジュンは、しっかり前を見つめて新しい門出に向かって走り出した。 

 

       

タカユキとサンキチ

 

 『キューポラのある街』はジュンの成長を描いた青春映画であるが、弟のタカユキも重要な役割を果たしている。小学生ながら法を犯すことも厭わない悪ガキで年がら年中辰五郎に殴られている。昭和30年代の子どもに人格はなかったのか。ジュンは「ろくろく話も聞かずタカユキを殴っちゃうんだもの。あれじゃひねくれちゃうわよ。」と辰五郎に意見するがまったく仰る通りだ。
 タカユキの親友のサンキチという少年もまた重要な役どころ。彼は朝鮮に帰還するジュンの友達の弟なのだが、姉より出番がずっと多く、なかなかの演技。
 朝鮮行には日本人の母親と別れなくてはならないのだが、まだまだ母親が恋しい小学生。いったんは川口を出るが母親に会いたい一心で戻ってしまう。ところが母親は再婚しており行方知らず。号泣しているサンキチに驚くタカユキ。
 タカユキもサンキチもやんちゃな悪ガキだが、二人とも本当の悪じゃなくナイーブな優しさも持ち合わせた憎めない子どもたちである

 

映画の背景

 

 主演の吉永小百合は撮影時まだ16歳。初の主演作ではないが、それまではどちらかというとマスコット的な存在だった。『キューポラのある街』がきっかけで女優として大きく成長し、日活青春路線の看板女優となった。

 東野英治郎、杉山とく子、浜田光夫加藤武といった主要人物以外にも、菅井きん吉行和子小沢昭一北林谷栄、浜村純、小林昭二といった名脇役の共演も見どころの一つだ。

  

 物語は1959年から始まった在日朝鮮人の帰還事業がもう一つのテーマになっていて、
在日朝鮮人の話が頻繁に出て来る。中には現在の地上波じゃ放送できないような差別的なセリフも飛び交う。しかし全体を観ると反朝鮮映画でもない。

 当時北朝鮮は「地上の楽園」「衣食住の心配ない」と喧伝して帰還を促した。日本政府も推奨したため帰還事業は盛り上がり、20年間で約9万3千人が帰還した。

 帰還問題がテーマの一つになっている他に、貧困や高校進学、労働組合も取り上げている辺り、『キューポラのある街』がプロパガンダ映画といわれるゆえんだろう。
 

時代の変遷

 

 『キューポラのある街』を今の若者が観たらかなりの古さを感じるのは当たり前としても、昭和50年代に子ども時代を過ごした人たちでさえ古く思うんじゃないだろうか。

 もしかしたら映画が公開された頃に生まれた人も驚くかもしれない。

昭和30年代とはそれほど劇的に日本が変わっていった時期なのだろう。

 1962年は8月にアメリカでマリリン・モンローが死去、10月にイギリスでビートルズがデビュー。日本はずい分変わったものだ。

 舞台となった川口自体当時の面影はほとんど残っていない。

 それにしても新進気鋭の16歳の人気女優を、こんなテーマの作品によく出演させたものだ。あの頃は普通のことだったのだろうか。

  

 登場人物はほとんどが貧乏なのだが、大人も子どもも何かやけっぱちで生きてるようなたくましさを感じる。誰もがエネルギッシュだ。そのためか、暗く重い内容も妙にすがすがしい印象を与える。

 ラスト・シーン、ジュンとタカユキが走っていく姿は明日への希望を感じさせる。

 言うまでもなく、若き日の吉永小百合も最大の見どころだ。