キンタメ

『座敷女』 望月峯太郎 

 

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ホラー漫画の金字塔

 『座敷女』は『バタアシ金魚』や『ドラゴン・ヘッド』の望月峯太郎が1993年、ヤングマガジンで連載を開始したホラー漫画である。発表から四半世紀を経た現在でも、人気の高いホラー漫画の金字塔的作品だ。内容は口裂け女の要素を取り入れた異形な女から付きまとわれる大学生の物語である。

 

 作者の望月は作画へのこだわりも強く、漫画的な表現でありながらリアリティがある絵柄が、物語の恐怖を増強している。

 望月は漫画を発表することを、お尻の穴まで見られるくらい恥ずかしい思いで描いているらしい。インタビューでそんな風に答えているのを読んだ覚えがある。真剣に漫画と向き合っている作家なのだろう。 

 

あらすじ

 

始まり

 主人公は大学1年生の森ヒロシ。アパートで一人暮らしをしているごく普通の若者だ。物語は何気ない日常から幕をあける。夜中に目覚めたヒロシは隣室のインターフォンの連呼に気付いた。真夜中の訪問者への好奇心からドアを開けると薄気味の悪い女が立っていた。不吉な予感十分のオープニングだが、この日を境にヒロシは予想だにしない事態に巻き込まれていく。

 最初の夜は顔を合わせただけで何事もなくおわるが、翌日の深夜も女は隣室に訪れる。次に女はヒロシの部屋のインターフォンを鳴らす。隣は居留守を使っているから電話を貸してくれと頼まれ、思わず貸してしまう。

         

常軌を逸した行動

 この時点ではまだヒロシは気味の悪い女、程度の認識で友人たちにネタ半分で話していた。しかし深夜ヒロシの部屋に女から昨夜ポーチを忘れていないか電話が入る。突然の電話に驚くヒロシだが、女は電話を借りた時ヒロシの電話番号を記憶していたのだ。女の行動が徐々に常軌を逸してくる。

 翌日、ヒロシは以前から気になっていた女子高生のルミちゃんとキャンパスでばったり会う。偶然の出会いに二人は喜ぶが、事務局に女から電話がくる。女はポーチが今すぐ必要だから返せと言うがルミちゃんと一緒にいたいヒロシは断る。しかししつこい女に負けて、勝手に持っていけとアパートの鍵の隠し場所を教えてしまう。ヒロシは女を気味悪がっているのに、ルミちゃんを優先するたにとったこの処置が致命傷となる。ルミちゃんと初めてのデートを楽しんでる間にアパートを訪ねた女は、こっそり合鍵を作ったのだ。

 

女の正体

 元々は隣室の山本君を訪ねて来ていたはずの女はいつの間にかヒロシの生活に入り込んでいた。隣人のトラブルに巻き込まれて本気で迷惑していたが、友人たちはそんな女を興味本位で一目見たがった。彼らはこんなことも面白がる若さがあった。

 ある日幼なじみの佐竹と飲んだ後アパートに帰った二人は、合鍵を使い部屋に入ろうとしていたおんなと鉢合わせる。逃げる女を腕に覚えのある佐竹が追う。空手経験者の佐竹が何発蹴りを食らわせても起き上がる人間離れした女に、恐怖を感じ逃げ出した。

 

 追いかけてたはずの佐竹が追われていることに驚くヒロシ。ギリギリのところで警察に保護されとりあえず危機を回避したが、酔っ払いのバカ話だと相手にされなかった。

 しかし女の顔を間近で見た佐竹は、女は二人が小学生の頃イジメていた田尻早苗じゃないかと言う。謎だった女の正体が判明したのか。

 

ヒロシがターゲット?

 もし本当に女が田尻早苗だとしたら、女の目的は隣室の山本君ではなく初めからヒロシがターゲットだ。真相を知るため佐竹は二人の地元にバイクで向かう。

 ヒロシはもし女が田尻早苗 だとしたら、自分はどうすればいいか迷いつつルミちゃんと会う。せっかくルミちゃんといるのにヒロシはどこかうわの空で、そんな二人を女は遠くから見つめている。

 雨の中ヒロシと別れて一人になったルミちゃんをついに女は襲い、その足でヒロシのアパートへ行く。ヒロシは女に田尻早苗なのか問い質すが、その時佐竹から電話がくる。佐竹は故郷で田尻早苗を見つけたのだ。だからその女は田尻早苗ではないことを知らせた。では目の前女は一体何者なんだ、呆然としているところへ襲われたルミちゃんが現れる。ルミちゃんを突き飛ばして逃げた女にヒロシの怒りは沸点に達し、決着を期すため動き出す。

 

終わらない女の執着

 いつまでたっても留守にしている騒動の元凶である山本君の部屋へ空き巣さながら忍び込むと、隣室は女によってこれ以上ないほど荒らされていた。訳が分からないまま自分の部屋に戻るとそこには女が待ち構えていた。なぜなのか女の執着は終わっていなかった。そしてさらなる災難がヒロシを襲う。

 

座敷女』の怖さ

     

 『座敷女』今読み返してもまったく古さを感じさせない。むしろ現代の方がよりリアリティがあるのかもしれない。

 またコミックス1巻で終わっているのもいい。冗長なシーンがなく、テンポよく一気に読める上余韻を残す。

 そしてその傑出した怖さの要素はいくつか考えられる。

↓ 以下ネタバレあり 

 望月の作画に寄るところが大きいが、まず怖いのはその見た目である。幽霊のような長い黒髪に薄汚れたトレンチコート、極端に離れた両目と威圧的な長身。女の外見は見る者に恐怖感だけでなく、激しい嫌悪感をも与える。平岡夢明の怪談と同質の嫌悪感を。

 次に女の正体と目的が最後までまったく分からないことだ。中盤、その正体は子どもの頃イジメていた相手で、大人になったその子が復讐にやって来たと推測するものの、女は別人だと判明する。すべては振出しに戻り女の存在はまたも謎に包まれる。

 そして最終的にヒロシがどうなったか明確にしないまま物語は終わる。すべてを明かさずも救いようのない運命を暗示している結末は読者の想像力を刺激し、恐怖心を煽る。

 さらに、たまたま隣室を訪れた女につきまとわれる理由にまったく心当たりがない。

ということは、座敷女は今夜にも自分の部屋にやって来てもおかしくないことに気付かされる。特に一人暮らしの身にはヒヤリとさせられるものがある。

 極めつけは最終話、ヒロシは一切登場せず、ヒロシと一連の出来事は都市伝説となって語られている。噂の真相を突き止めようと探る青年が描かれるが、彼こそもう一人の謎の人物、山本君であった。

 事の真相をつかめず肩を落とす山本君の前に現れた座敷女。驚愕する山本君に女はにっと笑いつぶやく。

 

 「・・・どこに隠れていたの? 山本君?」