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『オン・ザ・ロード(On The Road)』 路上の人生

放浪 ビート・ジェネレーション

 

 『路上(On The Road)』はビート・ジェネレーションの名付け親、ジャック・ケルアックの自伝的小説。登場人物の多くが実在の人物で、主人公のディーン・モリアーティのモデルはニール・キャサディ。サル・パラダイスはケルアック自身がモデル。その他ウィリアム・バロウズアレン・ギンズバーグ等、ビート・ジェネレーションの作家が登場する。

 

 

 彼らがただひたすらアメリカを自由気ままに放浪する物語。大戦後のアメリカで、反体制的な新しい価値観を提示した内容は社会にに絶大な影響を与えた。

 

 21世紀になってから新訳版が『オン・ザ・ロード』のタイトルで出版され、最近ではそのタイトルが一般化している。物語の内容から『オン・ザ・ロード』の方がピタッとくるが、個人的には『路上』が好みだ。『路上』って響きが、いろいろ想像力を掻き立ててくれるからだ。

 

ヒッピーの聖典(バイブル)

 

 1940年代後半から50年初頭にかけて作者自身が体験した事を元に一気に書き上げた。

頭に浮かんだことをそのまま書き出すことを目指したケルアックは、タイプライターの紙を入れ替える際、執筆作業の停止を嫌い、紙をテープで貼りあわせて打ち込んだ。最初の原稿はわずか20日で完成させた。オリジナルの原稿は長い巻物状である。

  初版は完成から6年後の1957年に発売されたが、60年代後半のカウンター・カルチャーの流れで注目を集め多くの若者の愛読書になった。特にヒッピーの間では熱狂的に支持され、『オン・ザ・ロード』はバイブルになり、ケルアックはカリスマ的存在となった。

 

 既存の社会に抵抗し古い価値観に縛られず、自分の生き方は自分で決める。現代アメリカのメイン・ストリートからドロップ・アウトしたようなビート・ジェネレーションの生き方こそ、ヒッピーたちの理想だったのだろう。もしかしたらヒッピーなどに限らず、いつの時代も若者が憧れる普遍性を持ってるのかもしれない。最初に出版されてすでに60年経ってしまったというのに、今も若者たちに読まれているのだから。

 

「音楽」と「麻薬」

 

 『オン・ザ・ロード』の重要なアイテムというかメイン・テーマの一つに音楽と麻薬がある。

 

 本が発売された1957年は前年のエルビス・プレスリーの登場でロックン・ロールが流行していたが、1940年代後半のシーンはスウィング・ジャズからモダン・ジャズに移行した頃だ。

 ビート・ジェネレーションも初期モダン・ジャズのビバップを好んで聴いた。ケルアックはチャーリー・パーカーを崇拝していた。その影響は『オン・ザ・ロード』の制作に表れている。原稿を巻紙状にして直感的に書いたのは、ビバップの即興演奏の様式を執筆に取り入れたのだ。

 その瞬間、瞬間のインスピレーションをそのまま言葉にしたリズミカルな作品を原文で読めないのが悲しい。

 

 アメリカのカルチャーはメインにもサブにもいつも麻薬があるような気がするが、ビート・ジェネレーションもドラッグが大好きなようである。

 日本人から見ると未成年がこっそりタバコ吸うくらいの感覚なのだろうか。アメリカではそんなに身近なものなのか。 

 彼らは肉体的・物理的だけでなく、精神まで「ここではない何処か」へ常にトリップしてるわけだ。

 考えてみればビート・ジェネレーション信者のヒッピーたちも、音楽(ロック)と麻薬(アシッド、マリファナ)が必須だったか。

 

 

キーワードは「移動」

 

 物語の主人公たちはアメリカ大陸をひっきりなしに動き回っている。そこには意味などいらないのだろう。必要がなくても衝動で動いてみれば、その先に何かあるのかもしれないのだ。移動そのものに意味があるのかもしれない。とにかく現状から動いてみるべきだろう。

 とは言っても自分にはなかなか簡単なことではない。実際、若い頃には何度もチャンスがあったのに、日本どころか東京からもほとんど出ないで過ごしていた。

 周りにはバック・パッカーと呼ばれるような目上の人たちが何人もいて、旅に出る必要性を日常的に口説かれていたが、どうしても旅立つことができなかった。

 

”ディーン・モリアーティの登場で、ぼくの人生のもうひとつの章、路上の人生とでも言えそうなものが始まったのだ。”

 

 思えばあの時自分の人生にもディーン・モリアーティが登場したのに気づかなかったのかもしれない。でもそれでよかったとも思う。

 距離的に遠くに行くことだけが「移動」ではないのだろうし。

 

 ドアーズのジム・モリスンに決定的な影響を与えた小説として有名だったし、いつか読んでみたいと思っていたら、書店に平積みされた『路上』を見つけた。表紙の鈴木英人のイラストの後押しもあって即購入。一気に読ます疾走感のある小説だった。彼らの生き方には憧れるが多分共感はしなかったのだろう。結局自分は「路上の男」にはならなかった。

 今見るとこの作品に英人のイラストはちょっと違う気がする。昔は好きな表紙だったのだが。