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distractions ~ディストラクションズ 気晴らしブログ~

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ビーチ・ボーイズ 『オール・サマー・ロング』

 

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夏はやっぱりビーチ・ボーイズ

 夏といえば海。海といえばビーチ・ボーイズ。短絡的だが夏になると突如ビーチ・ボーイズが聴きたくなる。特にサーフィンやホットロッドをテーマにした初期のアルバムが気分だ。暑いと思考が単純になるようだ。 

 『オール・サマー・ロング』はビーチ・ボーイズの6枚目のオリジナル・アルバムで1964年7月13日リリース。ビルボードで最高4位のヒットを記録した。内容はデビュー当時ほど押し出してないとはいえ、得意とするアメリカの若者のライフ・スタイルをモチーフにしている。

 

 1964年といえば、2月にアメリカ上陸を果たしたビートルズが大旋風を巻き起こし、それを契機にイギリスのアーティストの曲が次々とチャートに入る、いわゆるブリティッシュ・インベイジョンが始まった年である。

 イギリス勢に押され、それまでヒットを連発していたアメリカのトップ・アーティストもチャートから遠ざかる者が少なくなかった。彼らのサウンドはもはや時代遅れとなってしまったのだろうか。

 そんな状況の中ビーチ・ボーイズはイギリス勢に対抗できる数少ないバンドの一つだった。

『オール・サマー・ロング』収録曲

 『オール・サマー・ロング』収録曲を勝手に解説してみる。

「アイ・ゲット・アラウンド」 

 アルバムの冒頭を飾るのは、大ヒット・チューン「アイ・ゲット・アラウンド」だ。

ビートルズ旋風真っ只中勝負に出たこの曲は意外なことにビーチ・ボーイズ初の全米 No.1 ヒットである。タイトル通りの曲調で、マイクのリード・ボーカルにブライアンのファルセット・ボイスが絡んでいく傑作ポップ・ソングだ。イギリスのアーティストには決して作れない底抜けの明るさは、ブリティッシュ・インベイジョンに対する、アメリカからのお返しか。ビーチ・ボーイズが初めて1位を獲得したのも偶然ではなかったのかもしれない。

「オール・サマー・ロング」

 フェイドアウトしていく「アイ・ゲット・アラウンド」に続くシロフォンのイントロが小気味いいアルバムのタイトル・ナンバー

 フランシス・コッポラの青春映画『アメリカン・グラフティ』のエンディングで流れたこともあり、いつ聴いても感傷的な気分にさせられるビーチ・ボーイズの傑作バラード。若い頃、洋楽の歌詞ってさっぱり分からず聴いていたけれど大人になって改めて歌詞を読んでみると、二度と戻れない”あの頃”の一コマを見事に表現されていた。マイク・ラブ、見かけによらずピュアな詩を書くんだなぁと。そしてタイトルが「オール・サマー・ロング」なんて。

 「ハッシャバイ」 

ブライアンのファルセットが冴えわたるこの曲は、意外なことにブライアンのオリジナルではなく、ミスティックスの1959年のヒット曲のカバー。この時期のブライアンはいくらでも名曲が書けただろうが、多忙過ぎてカバー曲を収録しなければ間に合わなかったのだろうか。しかしカバーとは言えビーチ・ボーイズのヴァージョンはミスティックスを超えた出来映えなのではないか。

「リトル・ホンダ」

本田圭佑選手じゃなくてアメリカでバカ売れしたホンダ製のスーパー・カブのことを歌ったナンバー

バックで”honda,honda~"とコーラスまで入るホンダ推しの内容。まるでCMソングみたいだがタイアップではなくビーチ・ボーイズが勝手に制作したようだ。この曲はその名もズバリ、ホンデルズ(The Hondells)というグループがカバーして大ヒットした。

「ウィル・ラン・アウェイ」

この曲もブライアンのバラード・ナンバー。やや抑えめのファルセットのためか落ち着いた印象を受ける。

「カールのビッグ・チャンス」

あまりビーチ・ボーイズっぽくないインスト・ナンバー

「ウェンディ」

あまりメジャーな曲じゃないけれど初期の名作のひとつ。コーラス・グループとしてのビーチ・ボーイズの魅力が存分に発揮されている必聴のバラード。完成度が高いだけに間奏部の咳払いがどうにも気になる。歌詞はフラれた男の愚痴と悪あがき。

「覚えているかい」

マイクがリードボーカルの軽快なロックン・ロール。自分たちが影響を受けてきたロックン・ロールへのオマージュ。突然ジェリー・リー・ルイスの「火の玉ロック」のフレーズが飛び込んできたりする。

「浜辺の乙女」

これぞ”ビーチ・ボーイズ”という感じのいかにもな一曲。

朝から海に入って、昼食後にもうひと泳ぎ。午後2時過ぎた頃、程よく疲れたしそろそろ帰り支度でも始めるか。

そんなある夏の午後の風景が、なぜかこの曲を聴くと浮かんでくる。

「ドライブ・イン」

マイクがリードを取るこれまたビーチ・ボーイズらしいアップ・テンポの一曲。初期のビーチ・ボーイズはブライアンのバラードとマイクのロックン・ロールがいい感じで並立していたグループだったのだと思わせる。

「楽しいレコーディング」

初期のビーチ・ボーイズのアルバムにはいくつかこういうお遊び的なトラックが収録されているが、個人的には必要なし。現在なら初回特典のボーナス・ディスク用という感じ。

傑作アルバム

『ペット・サウンズ』が傑作であることに異論はない。しかし、それはそれとしてこの『オール・サマー・ロング』もまた傑作と言っていいのではないか。

ライブアンがレコーディングに凝りまくる直前のナンバーはいい意味で聴きやすく、タイトル、ジャケットも含めて青春時代の普遍的なイメージを完璧に表現している。『ペット・サウンズ』とは違う方向だがとても良いアルバムだと思う。これぞヒット曲を連発していた初期ビーチ・ボーイズの集大成だろう。

 

ブリティッシュ・インベイジョンに押され気味のアメリカのアーティストが、イギリス勢には決して作れないような内容のアルバムを発表したところ、海の向こうの新しいサウンドに夢中だったアメリカの若者がそれを熱狂的に支持した。

このアルバムの成功はそんなところだろうか。しかし誰よりも新しいサウンドに影響を受けたアメリカ人はブライアン・ウィルソンその人だったのかもしれない。