キンタメ

『仮面の告白』 三島由紀夫

作家 三島由紀夫誕生

 

 生まれつき病弱だった三島由紀夫は、祖母の方針で男の子と外で遊ぶことを禁じられて育った。いつも家で過ごしていたせいか、子どもの頃から文章や詩を書くのを好んだ。

 16歳の時に書いた中編小説『花ざかりの森』が同人雑誌に掲載されるも、まだ若すぎるという理由で本名は伏せてペンネームで発表される。作家「三島由紀夫」の誕生、『花ざかりの森』は高い評価を得る。

 

 

 その後も小説を書き続けていたが、息子の執筆活動に反対だったエリート官僚の父親の ”有無を言わさぬ” "強制で” 東京大学法学部に入学する。

           

 21歳になった三島はその才能を川端康成に見出され、それを足掛かりにプロ作家としてデビューする。生涯を通じて川端との親交は続いた。

 将来は作家になる意志であったが、父親の反対と経済的な安定のため官僚の道も考え、大学卒業後は大蔵省に入省。しばらくは作家と役人、二足のわらじ生活を送る。 

 

最初の書下ろし長編小説

 

 小説の仕事が増えてきた三島は常に寝不足であり、役所勤めとの二足のわらじ生活は次第に無理が生じてきた。限界に達した三島はついに作家一本でやっていく決意をし、1948年9月 大蔵省を辞めた。

 その頃河出書房から書下ろしの長編小説の執筆依頼がきた。専業作家となった三島は喜んで依頼を受け、その年の11月から『仮面の告白』の執筆を始める。

仮面の告白』内容

 

 『仮面の告白』は私小説である。執筆にあたり三島は「作家生命を賭ける」強い決意で臨んだとのことだ。

 物語は四章に分かれて構成されており、生まれた時の記憶から書かれている。冒頭の産湯の盥のふちが光っていたことをはっきり覚えているというくだりには驚かされた。

まさか生まれた直後の記憶がある人間がこの世にいるとは。一気に引き込まれる書き出しだ。

 

第一章

 第一章は幼い頃の出来事とその時自分が何を感じていたかを語る短い章だが、本人はまだ無自覚ながら、後に三島を悩ませる性癖がすでにはっきり現れていることがわかる。

 

第二章

 第二章は一気に思春期の三島少年の話になる。性的に覚醒し成長していく中、誰もが感じるような少年らしいとまどいが丁寧に描かれている。三島は同性の少し年上の同級生で、少し乱暴なところのある逞しい体つきの少年に恋をする。自分が貧弱なためなのか、三島は5歳頃には逞しい若い男の肉体に特別な感情を持っていた。恋の相手への関心もほとんどその肉体にのみ注がれていた。

 

第三章

 異性のことばかり考える年ごろの同級生たちと接しているうちに自分はみんなと違うことに気付いた三島の葛藤が始まる。自分は女性を性的な対象として見たことがないことに悩む。 

 一方では友人の美しい妹に恋をする。彼女と過ごす時間は幸福だが異性に恋をする不安は拭えない。三島は自分が普通の男だと証明するために彼女と接吻する。しかし接吻しても快感もなにもなった。彼女が好きなのだが肉体的は反応はない。

 三島の複雑な感情を彼女は気付かず、友人である彼女の兄から婚約を打診する手紙が届く。予感していた展開だったが三島は愕然として、この申し出を断る。要は自分に自信がないのだ。

 そして自分を好いてる女をこっちから振ってやったんだ、と強がることでしか現実と向き合うことができなかった。

 

第四章

 戦争が終結し、彼女は別の男と結婚した。戦争で死ぬ希みも絶たれた三島あいまいな気持ちで大学に通っていた。

 いまだ女性経験のない三島は、ある時友人と連れたって売春宿へ行く。また自分が普通の男であることを試すため、事前に練習までして挑んだが、目的を達することはできなかった。

 ある日散歩をしていると人妻となった彼女と偶然出会った。それから二人は時々会うようになる。三島には妙な下心はなく再会を楽しんでいたが、彼女の心境は少しづつ変化していった。 

 

読み終わって

 

 タイトルにある「告白」とは特殊(少なくとも本人はそう思っている)な性癖のカミングアウトだ。

 全編「肉体」と「死」に対する内なる欲望で貫かれている。そのため文学への想いなどは触れられていない。三島の人生に大きく影響したといわれる妹の死もたった一行で片付けられている。

 中学生くらいが初めて恋する相手が同性だというのは、特別珍しいことではないらしいので、三島もどこにでもいる少年だ。その後同年代の異性にほとんど初対面で恋をするが、これもよくあることだ。好きな相手と欲望の対象が別々なことも若さゆえの潔癖さであれば不思議なことではないだろう。

 しかし異性を好きになると同時に、肉体的には同性を求めるという感情に思春期の少年が戸惑うのも理解できる。なまじ頭がいい三島は、他人とはどこか違うかもしれない自分の心と体について考え過ぎるので、苦悩が深まっていったのだろう。

 

三島が欲情する雄々しい肉体はそもそもコンプレックスからきてると思うが、そういう相手を求めるだけではなく、やがて三島自身がその肉体を手に入れるのはどこからきているのだろう。ナルシシズムなのか。

 作品中多くのページを割いて語っている最初の欲望のはけ口、グイド・レーニの『聖セバスチャン』だが、後年三島はセバスチャンになりきって撮影している。

        

 また夏休み海に行った際、ひとり岩場に残された三島は何気なくセバスチャンのポーズを真似た自分の腋窩をみて ”不可解な情慾” を起こしたりしている。倒錯した自己愛なのだろうか。

 自分の性の対象と自分が同一化していくとはどういうことなのか。胸の大きな女性が好きな男が、豊胸手術で相手と同じように変化した自分を見て興奮することか。それはなんか全然違う気もする。

 本当に人の趣味趣向なんて十人十色、千差万別で。三島が異常だとか特殊だとは思えない。少し変わってる程度ではなかろうか。

 

 『仮面の告白』は23歳の三島由紀夫が痛々しくなるほど心情をさらけ出している。今まで誰にも打ち明けられず相当悩んだのだろう。

 三島の欲情のメカニズムは分からないけれど、とにかく一度読み始めると途中でやめられくなる、魅力あふれる作品である。

 内容的に好き嫌いがはっきり分かれそうだけど。

 

 

 

仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)