『ウィズ・ザ・ビートルズ』 ビートルズ
ビートルズ セカンド・アルバム
『ウィズ・ザ・ビートルズ』は1963年11月22日3に発売されたビートルズのセカンド・アルバム。
レコーディングは1963年7月18日 「ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー」のセッションから始まりハードなスケジュールの合間をぬって3ヶ月かけて完成させた。
また5枚目のシングル「抱きしめたい」「ジス・ボーイ」もこの時のセッションの終盤でレコーディングされたもので、ちょうど4トラックのレコーディング機材が導入されたタイミングだった。トラック数が倍になったことでレコーディングの幅がグンと広がり、これからビートルズは革命的なレコーディングを成し遂げることは周知の通り。
チャート状況
発売時にはまだファースト・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』がチャートのトップにいたためにビートルズのアルバム同士で首位争いとなった。30週間トップに君臨していた『プリーズ・プリーズ・ミー』に取って代わって首位に立ち、そのまま21週間その座をキープした。なんとイギリスのアルバムチャートは1963年の春から丸一年ビートルズが独占した。
ちなみに『ウィズ・ザ・ビートルズ』を1位から引き摺り下ろしたのはローリング・ストーンズのデビュー・アルバムだ。さらにストーンズから『ア・ハード・デイズ・ナイト』が1位を奪い返した。
収録ナンバー
A面
「イット・ウォント・ビー・ロング」
「オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ」
「オール・マイ・ラヴィング」
「ドント・バザー・ミー」
「リトル・チャイルド」
「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」
「プリーズ・ミスター・ポストマン」
B面
「ロール・オーバー・ベートーベン」
「ホールド・ミー・タイト」
「ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー」
「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」
「デヴィル・イン・ハー・ハート」
「ナット・ア・セカンド・タイム」
「マネー」
前作ではポールのカウントで始まったが、このアルバムではいきなりジョンのシャウトから幕をあける。どちらもインパクトのあるオープニングだ。一発で聴くものの心を掴むための工夫が見て取れる。
勢いがありいかにもビートルズらしいコーラスの「イット・ウォント・ビー・ロング」の次もジョンのラブソング「オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ」。どこか「アンナ」彷彿させる曲調だ。
3曲目はポールの必殺ナンバー「オール・マイ・ラヴィング」。50年以上たった今観ても、『エド・サリバン・ショー』のオープニングを飾るこの曲でアメリカ中のティーンの女の子がポールに夢中になったのもよく分かる。3連符を弾くジョンのギターが聴き所。
続く「ドント・バザー・ミー」は若干地味な印象もなきにしもあらずだが、記念すべきジョージの第一作目の曲だ。当時『マージー・ビート』の編集長だったビル・ハリーから「ジョンやポールみたいに君も曲を書きなよ」とせっつかれたジョージはその返答として「僕にかまわないでくれ」、といったこの曲を作ったようだ。
「リトル・チャイルド」はジョンとポールの共作のナンバー。おおよその作詞はポールのようである。ここでのジョンは印象的なハーモニカを聴かせてくれる。
次の「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」のオリジナルはブロードウエイのミュージカル『ミュージックマン』の劇中歌。ビートルズはペギー・リーのバージョンを参考にカバーしている。またしてもポールの甘いボーカル・ナンバーで女の子たちをうっとりせた。
モータウンのガールズ・グループ、マーベレッツが1961年に全米No.1を獲得した大ヒット・ナンバーのカバー。初期のビートルズはカバー曲も多数レコーディングしているが、No.1ヒットのカバーを公式にリリースしたのはこの「プリーズ・ミスター・ポストマン」のみ。今やビートルズ・バージョンの方が有名かも。アナログではA面ラストの曲
B面の頭はジョージがリードの「ロール・オーバー・ベートーベン」。もちろんチャック・ベリーがオリジナル。ビートルズはチャック・ベリーはジョン、リトル・リチャードがポール、カール・パーキンスがジョージがリード・ボーカルという役割だが今回歌うはジョージ。
軽快なポールの「ホールド・ミー・タイト」。元々はあの2月11日の『プリーズ・プリーズ・ミー』セッションで録音されたナンバー。この時ベストなテイクが録れなかったようでアルバムには収録されなかった。ビートルズはセカンド・アルバム用に再度レコーディングに臨み無事完成させた。
「ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー」はモータウン所属のミラクルズのカバー。R&Bチャート1位。ボーカルはジョン。ビートルズはブラック・ミュージックもよくカバーしているものの、ガールズ・グループやモータウン系に限られているところがストーンズを始めとするロンドン勢との違いか。
そのローリング・ストーンズのセカンド・シングル用にとジョンとポールがストーンズのメンバーの目の前で完成させたナンバー。当時のストーンズにはなかなか相性の良さそうなR&B。リンゴがボーカルのビートルズのセルフ・カバー。後に自分たちで曲を作るようになるミック・ジャガーとキース・リチャーズはこの時あっという間に曲を完成させたジョンとポールに大きな影響を受けた。ビートルズ・バージョンはリンゴが歌うことで直接対決を回避したのか。
「デヴィル・イン・ハー・ハート」。またまた黒人ガールズ・グループ、ドネイズのカバー。しかし「プリーズ・ミスター・ポストマン」と違いまったく売れなかったかなりのマイナー曲。港町リバープールは船員たちが直接アメリカから持ち帰るマニアックなレコードも出回っていたようで、ビートルズは他のビート・バンドとの差別化もありヒット曲以外も積極的にレパートリーに取り入れていた。このアルバムでは3曲目となるジョージのリード・ボーカル。
B面6曲目に収められた「ナット・ア・セカンド・タイム」は、そのタイトルからも想像がつくジョンお得意の恨みがましい悲観的なナンバー。歌詞の内容はさておき『ザ・タイムズ』誌にエンディングが『マーラーの「大地の歌」と同じ終止法』と絶賛された名曲。しかし作曲者のジョンはそれがどういうことか分からなかったらしい。
アルバムの最後はパワフルなジョンのボーカルが冴える「マネー」だ。オリジナルはバレット・ストロングがモータウンの前身タムラ・レーベルから1959年にリリース。全米23位のスマッシュ・ヒットを記録した。ジョンのお気に入りナンバーのようで勝負がかかったデッか・オーディションでも披露しているが、万全な体調ではなかったのか声が出ていない。ジョンが歌うカバー曲でアルバムを締める構成は前作を踏襲したのだろうか。
驚異的な売り上げ
『ウィズ・ザ・ビートルズ』はビートルズが社会現象になり『プリーズ・プリーズ・ミー』と「シー・ラブズ・ユー」がチャートのトップを走っているタイミングでリリースされた。予約注文で30万枚に達し、エルビス・プレスリーの『ブルー・ハワイ』の予約注文記録を塗り替えた。発売されるとあまりの売れ行きにアルバムであるにもかかわらずシングル・チャートにもランクインしてこれも記録を塗り替えた。さらに二年後の1965年9月にはイギリス人アーティストとして初のミリオン・セラーを達成した。
タイトなスケジュールの中でのアルバム制作のためじっくり曲作りができず、全14曲中6曲がカバー曲であるがオリジナル曲と違和感なく並べられており、アルバムを通してビートルズとしか言えないオリジナリティが貫かれている。
またハードなレコーディングだったにもかかわらず、既発のシングルA/B面曲は一曲も収録されていないのはさすがだ。